持っていて恥ずかしい本を作りたい!
Sep 08, 2011
『LEON』の発売日になると問い合わせの電話が鳴りやまない、という相変わらずの完売伝説を更新し続ける『LEON』も今年9月で10年目を迎えます。大きな時流の変化もあり世の中の気分もより安定志向へと向かいつつある今、編集長代理として前田さんはこれからのメンズファッションをどう考えているのでしょうか。
大和 前田さんが編集長代理として現場を統括されるようになってからの3年間、「ボリオリ」の楽ジャケや「PT01」のブレイクといったように、新しいベーシックが次々に生まれてきましたよね。
前田 この3年間、その時々ではトレンドが動いていないような言われ方をしてきたけれど、振り返って見てみると、実は大きく動いていたんだよね。トレンドを引っ張るイメージリーダーとなるブランドがその時々できちんと現れていたっていうのがその証拠。それでもここ最近はさすがに新しい流れが見えづらくなってきていて、あらためて“定番”というキーワードがクローズアップされつつあるかな。
大和 それは『LEON』そのものにも影響を与えるんですか?
前田 もちろん。でも『LEON』が安定志向に走ることは絶対にないから、むしろ今を“タメ”の時間に使いたいと思ってます。『LEON』では今までも「2枚目で美しい、エレガントな男になりましょう」なんて言ったことは一度もないのね。僕自身、二枚目ってすごく損だと思っているし。そもそも疲れちゃうでしょ!そんなの(笑)。ともかく『LEON』はむっつりスケベなオッサンよりも、よく働きよく遊ぶ前向きなオヤジでいたいぞ、というスタンスでいたい。けれども振り返ってみるとここ何年かは『LEON』ってちょっと格好いい路線だったかなぁ、と(笑)。今は「モテるって何だったっけ」という事を見直したい時期に入りつつあるかな。
大和 ファッションも『LEON』も“タメ”の時間、と。
前田 そういう意味ではファッション的に定番が気になるというのはあながち間違ってはいないんじゃないよね。
大和 なるほど。今月の『LEON』のタイトルも「モテるオヤジは定番が新しい」ですもんね。
前田 例えば自分が持っている2Bの金ボタンブレザーや、白シャツ、デニムだったり、シューズの一足一足だったりとか。べーシックなものがきちんと揃っていれば次に大きな流行が来たときにしっかり対応ができる。今はそのタイミングなんじゃないかな。今年は節電の影響もあって“スーパークールビズ”なんていう言葉もあったでしょ? そうするとトレンドと並列してどうしても実用的なものが必要になる。実用の中で差別化したくなるというのが当然消費の原理原則であって。例えばビジネスでポロシャツを着るとすると台襟なしのポロシャツを着るより、台襟付きのポロシャツを着ているほうが断然サマになるわけだし。だから『LEON』で提案する夏の涼感スタイルは全て台襟付きの鹿の子のポロシャツで組んできたのね。実用面を配慮したうえでのスタイル提案が必要となってくる夏だったからね。じゃあ今年の秋冬はどうなのよ?というと、さっきも言ったとおり、トレンドが見えづらい年になっている。であればファッションの傾向にフィットするためにもいまベーシックなものを着ておく必要があるというのが僕の考えかな。
大和 なるほど。この世の流れを考えたときにこれからの『LEON』が目指すところ、そして編集者として前田さんが理想とするところってなんでしょうか?
前田 僕はね、本当は持っていて恥ずかしい雑誌が作りたいのね! 男同士では見られるけれども女の子にはできれば見られたくない、というような雑誌。でもって部屋には飾っておきたくなるような装丁のもので。その最高の例が1950年代から70年代までの『PLAYBOY』。実は僕、1950年代中頃から1970年代中頃までの『PLAYBOY』が本当に好きで、普段は全然引っ張り出さないけど、段ボールの中にはあちこちのジャンクヤードで買ってきたのが箱詰めになってるほど。自分のなかではちょっとした宝物かな。ただオンタイムでそれを見ていた世代の人たちって、きっと彼女や奥さんには見られたくなかったんじゃないかなあ(笑)。でも編集者の視点で見ると、この時期の『PLAYBOY』は非常に高度でクオリティの高いアートディレクションと、骨太でジャーナリスティックな政治経済記事が入っていてとても男っぽくできている。ヌード写真やピンナップも、実はすごく綺麗なのね。まさに男の欲望をギュッと詰めました!みたいな(笑)。自分がいま作りたい本や求めている雑誌のイメージはそこにあって。
大和 それはインターネットでは表現できないものだったりするんですか?
前田 インターネットっていうのはかなりパーソナルなメディアでしょ。エッチな画像だって噂話だって、いくらでも内緒で閲覧できちゃう。しかも、無料で! でも雑誌というのはいまや唯一の有料メディアであるわけで。新聞は有料メディアではあるけれども月払いという仕組み上、一部あたりのペイは実際は購読者は意識していないはずで、それはケーブルテレビも同じだよね。ある情報をキャッシュオンでしか手にできない唯一のメディアが雑誌だとすると、なにを目的に買うか、がポイントになる。僕はこれってとても大切なことだと思っている。お金を払ってまでして読みたいものってなんだろう、場所をとってでも保管しておきたいものってどういうものだろうってね。ただそれとは同じではないけれども『LEON』はもともとちょっと恥ずかしい本だったはずなのね。
大和 モテたい、というオヤジの欲望に素直という意味で。
前田 だって、“モテるオヤジ”なんてタイトル、恥ずかしいじゃない?でもそこで紹介されているファッションは非常に的を得ていて、格好よくて・・・。書かれている内容を読むと理屈的にも凄く納得できる。それが『LEON』だと思うし、もちろんいまでもそこは変わらない。けど人は刺激には慣れてしまうもので、今では他誌まで「モテる」とか「オヤジ」とか使いはじめちゃってるでしょ。
大和 うちのお客さんもよく言っていたんですが、初期の『LEON』は家では読むけれどもカフェでは読みたくない、と。だけど最近『LEON』が恥ずかしいという風潮は確かに
ないですね。
前田 そうそう。でもそれは、時代が追いついてきちゃったんだよね。
大和 なるほど。
前田 いい歳をした男がお洒落をする。それからいい歳をした男が“モテる”ために頑張る。そういう事が決して恥ずかしいことではなく、それこそ肉食系という言葉に代表されるようにむしろ“今の40代、50代のほうがガツガツしていて格好いいじゃん!”というのが主流にすらなっている。だから恥ずかしくなくなったんだと思うよ。そこで『LEON』に更に恥ずかしさをプラスするにはどうすればいいかっていうと、これは難しい。それこそ『PLAYBOY』みたいに裸のピンナップを載せるぐらいしないと恥ずかしくならないもの(笑)。
大和 確かに(笑)。
前田 当たり前のその先や10年目、そして15年目を考えないといけないのが本当に今やらなきゃいけないこと。それこそ自分の中にあるトレンドの読み方や、昔から好きな本や雑誌が頭のなかをグルグル駆け巡っているというのが今の状態(笑)。だからモナコGPにしてもミッレミリアの取材にしても、自分が知らないことに首を突っ込むことをこれからも積極的にやっていきたいなぁ、と。
大和 やっぱり前田さんは現場が好きなんだ。
前田 そうだねえ。自分で経験するという事ってすごく大事。知っているつもりで実は知らない事って沢山あるんだよね。せめてこの目で見るという事を改めてきちんとやってみたい。それが10年目の『LEON』に繋がるのかなぁ。