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Backyard Talk Vol.015
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Backyard Talk vol.015 達人に訊く正しい靴磨き術
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吉田/B.R.SHOPさんで新しい靴磨きサービスを始めたそうですね。なんでもB.R.SHOPのお客様に限って、クリーニングを兼ねた磨きを4000円からしてくれるとか。今日はそのサービスを担当している凄腕シューシャイナー、丸谷誠さんに靴磨きの技をいろいろ教えてもらおうと……。
丸谷/よろしくお願いします。で、どんな風に話をしていったらいいんでしょう?
大西/実際に靴を磨きながら教えてもらうのがいいんじゃない?ワレワレが正しいと思っていつもやってることが、プロからすると間違いだらけ、なんてこともありそうだし。それにボクが今日履いてきたローファー、そろそろ磨き頃なんだよね(笑)。
吉田/あ、ずるい!とはいえボク、今日はスニーカーだもんなぁ。じゃあまぁ、今日は大西さんの靴でいきましょう。えっと……まずは汚れ落としの作業ですよね。丸谷さんはどうします。
丸谷/馬毛のブラシで全体をブラッシングし、靴表面の汚れやホコリを落とします。あ、その前に、靴磨きをするときにはシューキーパーを入れて革を伸ばして行うのが鉄則です。今日はないのでそのまま進めますが。
大西/このときは馬毛のブラシじゃないとダメなんですか。豚毛のブラシは?
丸谷/使う工程が違うんです。豚毛より馬毛のほうが毛質が柔らかく、馬毛のブラシはそれをびっしり植え付けています。だからどんなところにも毛先が入り込む。アッパーとソールの間、ウエルト部分、あとステッチに入った細かい汚れも弾き出しやすいんです。
吉田/へぇー。ボクなんて豚毛のブラシひとつで靴磨きをやってましたよ。
大西/ブラシだけで大丈夫ですか。爪楊枝とか使わなくても?
丸谷/これだけで十分。楊枝なんかよりも汚れが落としやすいはずです。
吉田/で、次の工程は?

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丸谷/水性クリーナーと呼ばれる、水性の汚れ落としクリームを塗ります。
吉田/汚れ落としクリームって、いまいち必要性がわからないんですよね。だからボク、いつも使わないんですが。
丸谷/そういう人のほうが多いかもしれませんね。街で靴磨きを仕事になさっている方でも、水性クリーナーでしっかり汚れ落としをしている人は少ないようです。でもこの作業はとても大事。女性のフェイスケアにたとえるとわかりやすんいんですが、洗顔やクレンジングせずに化粧をするなんて人はいないでしょう? 靴もそれと一緒で革を一度スッピンに戻してあげるわけです。
大西/わかりやすい(笑)。つまりこの工程で古いクリームや、革の中に浸透した塩分や汚れをいったん浮かせるわけですね。
丸谷/艶だし剤が配合されたクリーナーもありますが、あれだと革の中に残った古いクリームなどを閉じ込めてしまうことも。私が使っているような、いろいろ配合されていない水性タイプがベストです。お水は革の大敵なんていわれますが、けっしてそんなことはないんですよね。むしろこの作業をしないほうが衛生上問題あります。
吉田/だんだん艶がなくなってきましたよ。
丸谷/大丈夫。浸透していた塩分や汚れが表面に出てきたためです。
大西/このとき色の付いた靴なんかだと、それが落ちたりしますか?

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丸谷/パティーヌとかの上塗りしたタイプだと落ちますね。でもしっかり染色した色は落ちませんから安心してください。続いて次の作業は保湿。潤いを与えるクリームを塗っていきます。化粧水と考えてもらうといいでしょうね。全体に塗りますが、とくに甲の屈曲する部分などとくに重点的に……。
大西/そんなにべったり塗るんですか!ボクの靴、色が変わっちゃいません?
丸谷/あくまで保湿のクリームなので、革に浸透するから多めに塗っても問題ないですよ。あくまで下地作り。ラノリンという羊の毛から抽出した油分が入っていて、シワを伸ばす効果もあるんです。
吉田/いい匂いだなぁ。本当に化粧水みたいな匂い。
丸谷/ロウ分が少ないからです。この後に使うクリームやワックスはどんどんキツい色になってきますよ。どうですか、だんだん艶が出てきていませんか? 潤いが増すだけで革は艶を増すんです。本来はこの工程まで終わったら15分から20分くらい置くんですが、今日はこのまま進みますね。次は無色、もしくは靴の色に合った乳化性クリームを塗ってく作業。ここからお化粧の世界ですね。まず全体にしっかり塗り込めた後、豚毛のブラシで伸ばしています。豚毛はコシがあるので、シームに入ったクリームをかき出しながら、革表面に均一化させるという効果があるんですね。

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吉田/汚れ落とし用の馬毛ブラシはひとつでいいけれど、クリームを伸ばすための豚毛ブラシはいくつか色に合わせて持っていたほうがいいんですね。
丸谷/そうです。茶系用と黒系用の少なくとも2つは必要でしょうね。あと可能であれば、無色用も。
吉田/汚れ落とし用もクリーム塗り用も、ひとつの豚毛ブラシで間に合わせていたボクなんて論外というわけか(笑)。
丸谷/続いて油性のワックスをかけていきます。淡い色の靴なので今回はニュートラルのワックスを塗ります。
吉田/ひとつ聞いていいですか。乳化性クリームを使わずにワックスだけ塗るというんじゃダメ? いつもボクはそうしてるんですけど。
丸谷/油性のワックスは、9割型がロウ成分。これをアッパーの屈曲部などに塗りこめてしまうと、蝋燭のロウを垂らして固めたのと一緒で、革の通気性も失われ、最悪、革が履きシワのところから切れてしまうことも。だから屈曲するところには乳化性クリームを塗るんですよ。乳化性クリームは水、油、ロウを混ぜたもの。水で潤いを与え、油で栄養を与え、ロウでヒビが入らない程度に艶を与えるんですね。逆に油性ワックスは、つま先とか、ヒールとかカウンターの入ってる部分のみに塗ると効果的。ぶつけやすい部分に油脂の膜をはって保護するという意味もあります。
大西/最後に水を垂らして磨きあげないんですか。艶をアップさせるウラ技としてよく雑誌などで紹介されてますけど……。

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丸谷/よくご存知ですね。ただ艶を増すために水を落とすわけじゃないんですよ。あれはあくまでも磨き作業の潤滑油として垂らすんです。今からちょうどやるところなので見ててください。あ、その前に、水を垂らすときには、コットンウエスから柔らかいネルに変えないと。
吉田/なんで最初からネルを使わなかったんですか?
丸谷/ネルの繊維をワックスが取り込んでしまうから、最初はちょっと粗めのコットンがいいんです。……で、こうして水を垂らすんですけど、ボクはこのオリジナルの水を使います。アルコールを少し混ぜているんです。
吉田/揮発性を高めるんですね。
丸谷/その通りです。あとお水もトルマリン水。トルマリンの石を一週間くらい漬け込んだ水です。比較的高摩擦になるんです。
吉田/すごい! 魔法の水だ。フツウの人がやる場合もそんな水を用意したほうがいいんですか?
丸谷/いえフツウの水で大丈夫。ただ冷えてるほうがいいでしょう。ぬるい水だとせっかく塗った油をドロッと溶かしてしまいます。あと革の毛穴を引き締めるという意味でも冷たい水のほうがいい。
吉田/それにしてもさっきからすっごく丁寧に磨くもんですね。この最終的な磨きの工程だけでどのくらい時間をかけるんですか?
丸谷/20分は磨き続けます。表面が乾いて滑りが足りなくなったら、水を垂らしつつ。
吉田/うへぇ! (そして20分後)

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大西/うわぁピカピカですね。磨いてもらわなかったほうと比べると艶が歴然と違います。しかもこのツルッツルなさわり心地はなんですか! つま先なんて、本来の革質とまったく別物ですよ。まるでパテントレザーみたい。
吉田/いやぁ本当に勉強になったなぁ。とりあえずちゃんとした靴磨きセットを揃えなくちゃ。それじゃあ丸谷さん、本日はありがとうございました!
丸谷/こちらこそ、どうも。
大西/えっ、ボクの靴のかたっぽ、このまま?

右がBEFORE左がAFTER
右がBEFORE 左がAFTER

しみ抜き+皺抜き+グラサージュ
¥8,400(税込)

右がBEFORE左がAFTER
右がBEFORE 左がAFTER

色の染め替え (皺抜き、しみ抜き、
グラサージュ付き)
¥12,600(税込)
染め色は、要相談。

左がBEFORE 右がAFTER
左がBEFORE 右がAFTER

グラサージュ
(トゥ+ヒール鏡面仕上げ)
¥4,200(税込)
しみ抜き+グラサージュ
¥6,300(税込)
皺抜き+グラサージュ
¥6,300(税込)

丸谷 誠さん

丸谷 誠さん

シューシャイナー

著名な方にも支持される凄腕シューシャイナー。巧みなクリーニングで本来の革質に戻した後に実施される独特の靴磨きは、1足について50分を優に超えるほど丁寧です。彼の手にかかった靴は、新品状態よりも格段と輝きを増します。しかも磨きだけでなく、革色を変えることも大得意!現在、火曜日の午後4時から8時まで、日曜日の午後12時から4時まで、B.R.SHOPのディスプレイスペースで実演会を行っていますので、その神技を見たい人は是非!

戸石 和馬さん

戸石 和馬さん

シューケアマイスター/株式会社R&D

シューケア用品の輸入代理店「R&D」勤務。古今東西のシューケア用品に精通し、靴メンテナンスに関しての知識も膨大。丸谷さんとは知己の中で、座談会に特別アシスタントとして参加してくださいました。日本の本格靴ファンに、正しいケア方法を伝えることを自らの使命と課しています。

吉田 巌

吉田 巌

ライター/有限会社十万馬力

服、靴、鞄、そして時計、と男性の物欲を刺激するアイテムについて何でもかんでも書きなぐっているライター。イタリアのバイクが好きで、生死の境をさまよう事故に遭いながら、懲りずにベスパでリハビリ中。東京で1番好きな場所は新宿ゴールデン街。遅筆。

大西 陽一

大西 陽一

ファッションエディター/RESPECT

エディター的視点からスタイリングのできる希少な存在として、雑誌や広告など幅広く活躍する売れっ子。守備範囲はメンズファッションだけにとどまらず、インテリアやクルマ、雑貨までにも及び、親しみやすいほがらかな人柄が多くの編集者から愛されています。趣味の写真の腕前は相当なもの。

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