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Backyard Talk Vol.025
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Backyard Talk vol.025 『着る人と一緒に年を重ね、心まで豊かにする。 ニットとはそうあるべきだと考えているんです。』 YURI PARK
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イタリアに伝わる昔ながらの技法を大切に、まさに一生モノと呼ぶにふさわしい極上ニットを生み続けている「YURI PARK」。 世の女性たちをたちまち虜にし、最近はニット好きの男性からも熱く注目されているそのニット作りの深淵に迫るべく、ブランドを立ち上げたデザイナー、ユリ・パークさんへのスペシャルインタビューを行いました。

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昔ながらの“手横編み機”で
作るニットの味に魅せられ、
単身イタリア・ミラノへ

大和 じつは私の妻がもともと「YURI PARK」の大ファンなんです。だからユリさんが作るニットのクオリティについては以前からよく知っているつもり。私もニット好きですからさまざまなブランドのニットを着倒してきましたが、最近のものは、新品時こそ素晴らしい着心地なのに、その品質を保てないものが多い。その点、ユリさんのものはいつまでも着心地や風合いが長持ちするんですよね。その秘密を知りたくて、本日対談させていただくことになった次第です。
ユリ ありがとうございます。なんでも聞いてください。
大和 まずはユリさんがイタリアでニット作りを始めることになった経緯をザッと教えていただけますか?
ユリ もともとは日本のアパレルで布帛のデザイナーをしていました。その後ニットの企画も手掛けるようになり、糸を編んで服を作るという行為の奥深さに開眼。企画ではなく、自分自身の手でイチからニットを作りたい、そしてどうせなら、昔ながらの“手横編み機”の技術を学びたい、との思いを抑えきれなくなってしまいまして……。そして学べる環境を探したら自然イタリアへたどり着き、2000年に単身ミラノに渡ったんです。
大和 その頃のミラノには手横編み機の技術を教えるところがあったんですね。

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ユリ 今はすべてなくなってしまいましたが、当時はまだ手横編み機の技術を教える学校や、市主催による職業訓練コースなどは幾つかありました。ただ、教えてくださる先生方は皆さんご高齢で、イタリア伝統のニット作りを学ぶには最後のタイミングだったといえます。
大和 そしてみっちり勉強されて……。
ユリ もう夢中でしたね。学校で技術を学ぶだけでは飽き足らなくて、自宅に中古の手横編み機を購入してしまうほどのめりこんでしまいました。もちろん工場用の編み機を買う余裕なんてありませんでしたから、家庭用でしたけれど。そして作品が30枚くらい出来た頃、販売目的ではない小さな展覧会を行ったんです。すると、それをきっかけに日本のバイヤーさんに作品を見ていただく機会を得て、嬉しいことにオーダーまでいただいてしまった。

糸目を詰め過ぎてもダメ。
目が一番心地よく並ぶテンションを
見極めるのが大切。

大和 いきなり仕事になってしまったわけですね。
ユリ そうなんです。仕事になれば一人じゃできないということで一緒に仕事をしていただける職人さんを探しはじめ、リナという女性と出会った。当時彼女は60歳代後半。もともと経営されていたニット工場を閉め、小さなアトリエで限られた顧客向けのス・ミズーラ、つまりオーダーメイドでニットを作っていたんです。互いのニットに対する根底の思いが通じ合っていたのか、すぐに意気投合し、そこから彼女との二人三脚でオーダーメイド専門のブランドとして「YURI PARK」をスタート。リナからは本当にいろんなことを学びました。糸の流れ、針の運び方、パターンワーク……何よりニット作りに必要なハートを教えていただいた気がします。残念ながら彼女は2005年に他界してしまいましたが、彼女のニット作りの魂はしっかり継承しているつもりです。

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大和 それは残念でした……。ところでオーダーメイドニットという文化は、日本の我々には馴染みが薄い気がしますが。
ユリ そうですね。実は私自身もイタリアに来てそういう文化があることを知りました。糸から選び、サイズをしっかり測ってもらい、できれば孫子の代まで着られる上等なニットウェアを誂える。こういう文化ってとても素晴らしいと思うし、私自身がそういうニットの作り手になりたいと強く思うきっかけとなりました。ちなみにウチの「アルティジャーノ」ラインの革タグには品番とシリアル番号を記しています。革にしているのはポイッと捨ててもらいたくないから。ホツレの修理や、袖丈や裄丈を直す必要があっても、革タグを一緒に送ってくだされば、どの糸を使ったか、どの職人がいつ作業をしたかがかわるため、より近い糸でお直しができる。そういうアイデアからなんです。
大和 そもそも今の時代、ニットを何10年も着られるものと考えている人はいないのでは? 昔のゴツいアランニットならまだしも、今ユリさんがお召しの柔らかい感じのニットが何十年も着られるなんて……。
ユリ 糸そのものがいいことは大前提ですが、目がしっかり詰まっていればニットは長持ちするものなんです。ニットは本当に目の詰め方が大事。目の詰め方次第で表情も風合いも変わるんです。

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大和 なるほど。で、ユリさんの目の詰め方の特徴は?
ユリ ちょっと観念的な表現になりますが、目が一番心地よく並ぶテンションになるように心がけています。着る人はもちろん、糸自体も心地よさを感じる編み目ですね。目を詰めすぎると糸自体が呼吸できなくなるので、そのギリギリのところを見極めるのがポイントなんです。
大和 目が心地よく並ぶテンションという言葉、いいですね。そういう職人的なこだわりがあるから、ユリさんのニットは長く着続けられるんでしょうね。毛玉もできにくいし。
ユリ ウチのカシミアニットは毛玉ができにくいとよく言われますが、絶対にできないとは言い切れません。それはその年その年の糸の状態によって毛玉ができにくいときもありますし、そうじゃないときもあります。
大和 でも普通のものと比べたら極端に毛玉が出来にくいのはたしか。10万円以上する高級ブランドのカシミアニットだって、一年着たら毛玉だらけになってしまうのに。ところがユリさんのニットは10年近く経っても毛玉ができにくいし、全然よれない。妻が着ているのを横でずっと見ているから自信を持って言いますが(笑)、ホントに丈夫。だって水洗いしても大丈夫なんですよね?
ユリ はい。そもそもニットは毛でできていますから、水に通してあげると繊維が一番喜ぶ。ちなみにドライクリーニングはダメージが大きいんです。シーズンに1回とかなら大丈夫ですが、やっぱり水洗い、できればお湯に通して洗ってあげることをおすすめします。もちろんベストは手洗い。そして仕上げに低い温度でスチームアイロンを掛けてあげれば、糸の風合いが蘇ります。
大和 ユリさんのは、洗濯後にアイロン掛けしなくとも綺麗に仕上がる。
ユリ 本当のことを言うと、私も自分が着るニットはアイロン掛けしていません。
大和 やっぱり(笑)。
ユリ たとえばカシミアだと原料もお高いですし、ウチの場合は手間暇かけて編んでいますから、それなりのお値段を頂戴しています。だからこそ日常生活でどんどん着て欲しいんです。「YURI PARK」がリバーシブルで着られるニットを展開しているのも、じつはそういう発想から。たとえばヘトヘトになるまで頑張った日などは、自宅に帰ってソファの上にニットを裏返ったまま脱ぎ捨てることもありますよね。リバーシブルなら、次の日にそのニットを裏返ったまま袖を通して出掛けられる。そして汚れが気になったら気兼ねなく洗う。そんな付き合い方をしてもらいたくてリバーシブルにしているんです。
大和 その発想って目からウロコですよね。絶対メンズでも大当たりするんじゃないでしょうか。B.R.SHOPでは、まずは「カポ・コンプレート」から取り扱いを開始しますが、こちらはどのようなコンセプトのラインか、ウチの読者にご説明いただけますか?

ニットを描いた
史上最古の絵画との出会いが
「カポ・コンプレート」を生んだ

ユリ 長らく「YURI PARK」は、先程もお話ししたオーダメイドコレクションの「アルティジャーノ」のみの展開でしたが、2009年よりホールガーメント機による「カポ・コンプレート」をスタートさせました。ホールガーメント機とは、簡単に言うと立体成形で縫い目のないニットを編み上げることができるマシンのこと。日本の島精機製作所が1995年に開発したものです。日本にいた頃から夢の機械だなぁと感じていたんですが、あるきっかけで“縫い目のないニット”というのが私の作品作りのキーワードとして浮上し、「YURI PARK」でも取り入れることになったんです。

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大和 そのきっかけとは?
ユリ ハンブルグの美術館で出会った一枚の絵画。1930年頃に描かれた「キリストの無縫製衣を編むマリア」という絵で、ニットが描かれた史上最古の絵画と言われているものです。その中でマリアはキリストのために手編みでセーターを編んでいるんですが、使っているのは4本の編み針。普通のニットは2本の針で編み、4本の針を使うのは靴下など縫い目のない筒状のものを編むときの手法です。なんだか神様が「縫い目のないニットを作りなさい」と私に語りかけているような気がしまして……。そこで島精機製作所さんにプレゼンテーションをさせていただき、「アルティジャーノ」でやっているシルエットを、そのまま縫い目のないニットに落とし込んだラインを立ち上げたんです。
大和 ホールガーメントのメリットってなんでしょう?
ユリ 縫製の必要がありませんから、コスト削減ができ、大量生産にも適しています。また余分な糸を使わないため、資源の有効利用や軽量化などのメリットもある。だからいまたくさんのメーカーやブランドが取り入れているわけですが、私が大切にしたいのはニット職人が作るホールガーメント。縫い目がないからこそ得られる伸縮性を十分生かすため、編み加減をじっくり吟味しながら作り上げています。また身頃と一体に編み上げられる襟など、リンキングがないからこそできるディテール表現にもとことんこだわりたいと思っています。
大和 よくある大量生産のホールガーメントニットと違い、ユリさんのは明らかに立体的に見えますよ。
ユリ 「アルティジャーノ」もそうですが、ウチのニットは肩のシルエットに特徴があって、肩に自然な丸みができるように編んでいるんです。具体的に言うと、洋服で言うダーツの役割を果たすよう丁寧に目を減らしている。これがユリ・パークのひとつの特徴。ホールガーメントをうまく使えばこうした肩の丸みをより美しく表現できるんです。そういう意味ではユリ・パークのパターンには適していると言えるでしょう。

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大和 うーん、いろいろ知るとユリさんのニットはやっぱり深いなぁ(笑)。もともとウチのお客様にはニット好きな人が多いですから、絶対ウチのお客様にウケますよ。将来は別注や、是非オーダーメイドラインの「アルティジャーノ」の受注会もやらせてください。
ユリ 是非是非(笑)。
大和 本日はお忙しい中、ありがとうございました。

ユリ・パークさん

ユリ・パークさん

YURI PARK デザイナー

日本のアパレル会社でデザイナーなどとして活躍後、単身イタリア・ミラノに渡り、昔ながらの“手横編み機”によるニット作りを習得。彼女が師匠と呼ぶニット職人リナ・コストンチェッリさんとの幸福な出会いもあり、2002年にミラノのナヴォリ運河近くに工房を構え、ニットブランド「YURI PARK」をスタートしました。現在はオーダーメイドの「artigiano(アルティジャーノ)」と、ホールガーメント(無縫製)機による「CAPO COMPLETED(カポ・コンプレート)」の2つのラインを展開。美しいラインと、心まで優しく包み込むような極上の着心地により、多くのファンを獲得しています。

YURI PARKオフィシャルサイト

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