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Backyard Talk Vol.026
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Backyard Talk vol.026 “感性”と“理論”の絶妙なバランスを感じさせる、 女子目線ならではの、メンズスタイリングの秘密。
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多くの有名メンズ誌各紙の編集者がこぞって絶大なる信頼を寄せるスタイリスト・梶谷早織さん。メンズファッションで活躍するスタイリストのほとんどが男性というなか、数少ない女性スタイリストとして業界でも稀有な存在です。気風のいい性格ながら、きめ細やかな気配りを欠かさない現場でのストイックな仕事ぶりに加え、男性スタイリストでも難しいクラシックスーツからモードな雰囲気が漂うカジュアルまでコーディネート提案の幅は広く、大人の男性読者の目を引き付ける色気と華やかさが香るスタイリングの完成度の高さに、フォトグラファーやプレス関係者からも愛される敏腕スタイリストなのです。 今回はそんな彼女に女性目線から見た男性ファッションについて語ってもらいました。

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森沢 梶谷さんの素敵なスタイリング、いつも素敵で憧れています。
梶谷 ありがとうございます!照れます(笑)
森沢 女性なのにメンズのスタイリングを心得てらっしゃるのは本当にすごいですよね。梶谷さんはどうしてメンズスタイリストの道を選ばれたのですか?
梶谷 最初からスタイリストを目指してたわけではないんですよね。タイミングと縁で今、スタイリストをさせて頂いてます。最初に出会った師匠がスーツのスタイリングが主だった方で、次に出会った師匠がメンズの世界の人だったんです。私も最初はお手伝いのつもりで初めて、気付けば今ではメンズの世界にどっぷりです。森沢さんがメンズのセレクトショップで働こうと思ったきっかけは?

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森沢 実はもともと作り手側の人間だったんです。レディースの仕立てから始まり、メンズのフルオーダースーツの仕立てを勉強しました。メンズのスーツの構造に関してはもうオタクですね(笑)でも実際にショップで男性の方を接客すると、コーディネート提案がいちばん難しいですね。
梶谷 そうですよね、私は雑誌を通してコーディネイト提案をしているので、少し選び方が違ってきます。
森沢 そういう違いはあるんですね。
梶谷 あると思います。接客と雑誌のスタイリングとは全く違うものだと思っています。スタイリングは想像の世界で作れますから。いち個人として向き合うとなると、体型も個々に差がありますし、相手の方の好みも気にして自由にできないじゃないかなーと思います。
森沢 梶谷さんがスタイリングを考えるときは、誰か理想の男性を想像しながらするんですか?

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梶谷 特にないですね(笑)媒体イメージに合うかどうかを考えています。リースの合間とかに、デザイナーのかたが書くようなデッサンするんです。こういう感じでコーディネイトつくろうとか、手帳やラフの裏等にイメージコーディネイトを書きまくってます。あとは、「これにこれが合うかな~」とか、感覚で合わせてています。感覚人間なので(笑)。 かっちりした生地のスーツには重い靴を、コットンやリネンが入っているスーツにはデザイン的にカタい紐靴でもスエード素材を選んでソフトに見せるとか。セオリー的な事は念頭におきつつ
森沢 それは女性ならではの感性ですよね。男性はディテールや生地やシルエットなど一点にこだわりますが、女性は全体の雰囲気でオシャレかどうかを判断しますから。やはり、男性のなかでもスーツスタイルやドレスのコーディネート提案は難しいですか?例えば、服の生地感を見て、シューズは重厚なグッドイヤーウェルトではなく、マッケイのほうがいいと判別できる女性はまずいないですよね。その感性が開花したきっかけはありますか
梶谷 物に多く接しているので、自然な流れで得たんじゃないでしょうか。少しの勉強と(笑)でも、正直、深いことは理解していないかも知れないです。やはり多少感覚的要素も入るので。そこは女子なんですよ。メンズ誌では撮影前のコーディネートチェックの時に「なんでこの服にこの靴を合わせたの?」とかロジックを問われるんです。一方、女性誌のチェックは「これ、可愛い!いいね!」で通る事が多いです。メンズ誌だと説明が求められるのですが、そこがうまく出来ないんですよね(笑)言葉で説明するのが苦手なので、第一候補をつくりながら、違うパターンも用意して、媒体や企画にフィットするほうを選んでもらう事も多いです。

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森沢 お客さんにもそういう方は多くいらっしゃいます。女性だとどうしても感覚的になりますよね。
梶谷 本当そうですよね(笑) かっちりした生地のスーツには重い靴を、コットンやリネンが入っているスーツにはデザイン的にカタい紐靴でもスエード素材を選んでソフトに見せるとか。セオリー的な事は念頭におきつつ
森沢 よく代表の大和が言っているのですが、B.R.SHOPがオープンした当初は「クラシコスーツはこう着るべし!」という時代の流れがあって、クラシックなスーツを扱うショップも重厚な内装で、ゆったり接客するというのが主流だったみたいです。そのなかで、ジム帰りにふらっと寄って、スーツが買えるような店をテーマにB.R.SHOPを作ったといっています。私自身も入社してまだ2年ですが、梶谷さんのスタイリングを拝見していて、柔らかさや感覚的なところ、ルールに縛られすぎない感じがB.R.SHOPのお客様にすごく合っていると思うんです。サルトリアのスーツにあえてTシャツを合わせちゃうところとか、ロジックで考えないところが面白いですね。

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梶谷 ジャケットのインナーにTシャツを着るだけで今どきのこなれた雰囲気に仕上がるので、大人の品や知性を失わない範疇でのカジュアルダウンはどんどん提案していきたいですね。たとえば「ガイオラ」のジャケットは作りこそクラシックですが、肩パッドが入っていないタイプなどはTシャツにも合わせやすい。あとはコットン素材ジャケットとか。ジャケットとインナーの素材やシルエットが醸し出す抜け感は考えますね。
森沢 私はメンズのテーラー出身ということもあって服の細かい作りを見すぎてしまい、ロジックやルールに縛られているせいか提案するスタイリングがシブくなる傾向があるので、梶谷さんの自由な感覚がうらやましいですね。クラシコスーツで肩パットなしでもTシャツを合わせるのには抵抗があって。
梶谷 そうですね。読者の方でも「テーラードには襟付きのインナーでないとダメだ」という意見もまだまだ多いように感じます。

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森沢 梶谷さん流のカラー法則もありますか?アウターやスーツがネイビーだった時に、「これを使うと着こなしが面白くなる!」という色はありますか?
梶谷 今季はビビッドなカラーパンツや柄モノが流行っているとはいえ、やはりモノトーンやベーシックなグレーやネイビーが軸カラーにはなりますよね。女性スタイリストに比べて男性スタイリストのほうがストイック。スタイリングに女性目線がはいると甘めになりがちですが、甘すぎにならないようにしようとは常に考えています。
森沢 そうなんですね!意外です。
梶谷 媒体によってはちょっと甘めがいい、という場合もあるのですが。最近ではイエローをよく使いますね。たとえば、ネイビーのジャケットに赤パンツをあわせると旬な印象にならないので、今年はイエローやグリーンを合わせてます。
森沢 梶谷さんは抜け感を出すのがすごく上手。パッとひと見て目をひくものが多いですよね。それにクラシックな着こなしをきちんと理解したうえでくずしているのがすごい!

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梶谷 ありがとうございます。着せ着けのクセのようなものがあるんですけど、抜け感とか自然なニュアンスをうまく表現したいな、といつもは思っているんです。でも、「まだまだカタいな~」とか「もう少し軽快に遊べたらな~」と思うことは多いです。実は頭でっかちなところがあるので、振り幅があるスタイリングに憧れます。
森沢 店頭ディスプレイを担当することもあるのですが、何かアドバイスをお願いします!
梶谷 “夢を作る”という点では、ディスプレイは雑誌の世界と似ていますよね。まずはパワーのあるアイテムやどうしてもこの商品を使いたいというアイテムを決めて、それを軸に今の流れをプラスしてくみ上げていくのがいいのではないでしょうか。
森沢 あまり好きではないアイテムから組むことは可能ですか?
梶谷 うーん、難しいなと思う事はあります。やはり好みはありますからね。

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森沢 スタイリングのインスピレーションはどこから得ることが多いですか?私自身、スタイリングの多くは雑誌を見て研究していますが、いい方法はありますか?
梶谷 コレクションのアーカイブだったり、雑誌の特集などで昔の著名人のスタイルを見るのもいいかも。当時の人の独特の抜け感は絶妙です。洋書含め、昔の雑誌はいろいろ面白い。いろいろ参考になるし、カッコイイです。あと、映画とかもいいと思いますよ。
森沢 なるほど。代表の大和も「スタイルのもとを作った映画や音楽や人物に興味を持て」と言ってますね。今の雑誌を見るとトレンドは一目瞭然でわかりやすいですが、新しいアイデアが思いつきづらいかもしれないですね。
梶谷 若い頃のショーケンのスーツ姿とか、ミック・ジャガーのレザージャケットの着こなしとか。そんなところに抜け感のヒントがあるのかもしれないですね。あと私、着物が好きなんです。着物の専門学校に通っていたことがあって。独特の色合わせの感覚が今も残っているのかもしれません。
森沢 そういう違った領域からの目線がクリエイションには大切かも知れませんね。 そんなひらめきを着こなしの提案に反映できたらいいのですが。

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梶谷 ファッションも生き方も、昔の人は粋でカッコよかった。それを今の目線でどう焼き直すか、という感じはしますよね。リアルに着る服は似合うものも、選ぶアイテムもほぼ決まっている。でもディスプレイはもっと夢の世界を詰め込めるんじゃないでしょうか。 森沢さんは今の仕事で、“こんな人に着てもらいたい”とか、“こういう風に着てほしい”といった気持ちはありますか?
森沢 気に入った服を着ることで自信を持ってもらえたり、気分がよくなっていただければいいなぁと思います。いま店頭にいて、男性のファッションに対する姿勢が変わってきたような気がします。ファッションをTPOや相手にあわせる礼儀として、そして生活の一部として楽しんでいる人が増えていると思います。そんな風にみなさんがファッションを楽しむお手伝いができればと思ってます。  最後にひとつお伺いしたいのですが、私は“カッコいい”ということを、“ブレないこと”“軸があること”と、そんな風に考えてます。梶谷さんにとって“カッコいい”ってなんですか?
梶谷 “自分を知っている”こと。まずはそこから“カッコいい”が始まるような気がします。
森沢 すごくいい言葉ですね。今日は色々な事を教えていただき、本当に勉強になりました。ありがとうございました。

Text 大谷繭子 / Photo 鈴木泰之 / Hair&Make 多絵
撮影協力 / B.kurkku(ビー・クルック)

梶谷 早織さん

梶谷早織さん

スタイリスト

レディースのコーディネートはもちろん、人気男性ファッション誌等でも活躍する、人気女性スタイリスト。男性スタイリストが多いメンズの世界でも、女性ならではのセンスで指示を集めている。

森沢麗奈

森沢麗奈

B.R.SHOP

個人でアトリエを構えるメンズスーツの仕立て職人に弟子入り後、独立して仕立ての下請けをしていたという、異色の経歴を持つ。女性ながら作りの面からもお客様にアドバイスできる希少な存在。

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